和英特許翻訳では仕上がりワードベースの単価が多いらしいがそれってどうなんだろう

和英特許翻訳では仕上がりワードベースの単価が採用される場合が多いようだ。本ブログ作者の取引先も全て仕上がりワードベースの単価を採用している。だが、個人的には以下の理由により原文文字ベースの単価の方が理想的ではないかと考えている。単価設定は翻訳会社や特許事務所の努力のみで簡単に変えられる問題ではない。本記事を通じ、発注の大元である企業の知財部がこの問題に少しでも注意を向けてくれたら幸いである。

仕上がりワードベースの単価のデメリットとメリット

仕上がりワードベースの単価のデメリット

和英翻訳の単価が仕上がりワードベースだと、冗長に訳せば訳すほど翻訳者は稼げることになる。 単価が仕上がりワードベースである、というのは例えば仕上がった訳文の1ワードあたりの翻訳料が20円、などと決められていることである。 翻訳者が極悪でなくとも、複数の異なる表現が全く同じ意味になると考えられるのであればワード数が多くなる表現を優先的に使う動機が生じてしまうことになる。もちろんワード数に比例する請求額が減ってしまったとしても簡潔な表現を選ぶ翻訳者は(実際にここにも!)いる。しかし、せっかく難解な和文を解読してわかりやすく簡潔な訳文を作ったとしても、その努力が報酬面では報われないのは残念なことである。ワード数が多くても良質な訳文はあり得ると思うが、請求額増加のためにワード数がむやみに増やされた訳文が良質なものになるとは思えない。

また、仕上がりワードベースの場合、同じ案件でも違う翻訳者が訳すと料金が変わってしまうことになる。見積もりがしにくい、とも言える。翻訳の単価が原文文字ベースであれば、翻訳者が誰であっても料金は変わらないし、見積もりもしやすい。単価が原文文字ベースである、というのは例えば和文原稿の1文字あたりの翻訳料が10円、などと決められていることである。

なお、これらのデメリットは悪質な翻訳者にとっては大きなメリットになる(^^;)。

ただ、原文に欠けている主語や目的語を大幅に補ったりすることが求められる場合、翻訳者にとっては仕上がりワードベースの方が報酬面では有り難いかもしれない。

仕上がりワードベースの単価のメリット

特許事務所では外国実務に合わせた定型文を訳文校閲時に訳文に挿入することがあるので、仕上がりワードベースの単価にしておいた方がその分の料金を企業知財部に請求しやすいことになる。つまりこれは特許事務所にとってのメリットである。

他業界の和英翻訳単価は原文文字ベースが主流

上に述べた理由などにより、翻訳業界では、原文文字ベースの単価を採用するのが常識となりつつあるようだ。日本翻訳連盟のHPにも、原文文字ベースの例が掲載されている。

特許翻訳の業界だけなぜ変わらないのか

特許業界では上記の通り、なぜかいまだに仕上がりワードベースの単価を採用しているところが多い。

従来の比較的大手の特許事務所では昔の料金表に近い形で料金設定をしたまま放置・・・というケースも多いようである。

また、顧客との料金交渉権を持つ経営者レベルの所長やパートナー弁理士などが外国出願の実務に携わらない場合は、顧客への説明を伴う合理的な料金設定は難しい。実務担当者がこれらの権限を持つ上司に進言できない雰囲気である場合も同じである。 企業知財部が仕上がりワードベースの単価で問題ないと思っているのであればわざわざそれを変える理由はない、と考える営業担当も多いだろう。

さらに、仕上がりワードベースの単価が採用される要因には、翻訳コーディネーター(翻訳発注実務担当者)の手間があると思う。

特許翻訳では発注の際に、同じ原稿(特許出願明細書)の中で重複する箇所(例:「特許請求の範囲」に記載されている内容と重複する「課題を解決するための手段」や「要約」に記載されいている内容)(以下、重複箇所)を除いて翻訳するように指示されることがある。校閲後に校閲者が単にコピー&ペースト&簡単な編集のみで重複箇所の訳文を作成できるので、翻訳者に重複箇所を訳してもらうのは勿体ないからである。また、「特許請求の範囲」は校閲において最も重点的にチェックされる個所であり、翻訳者や翻訳会社が納品した「特許請求の範囲」の訳文には変更が加えられる可能性が高い。重複箇所が訳されていると、校閲者は上記変更に合わせて重複箇所を全て修正しなくてはならないのに全てに対して翻訳料を翻訳者や翻訳会社に支払うことになってしまう。

上記の指示は、「発明を解決するための手段と要約は訳さないで下さい。」という説明だけで済んでしまう。

日本語の原稿データから翻訳不要な箇所を削除したものをわざわざ作成してくれる翻訳コーディネーターはあまりいないだろう。多数の案件をさばかなくてはならない彼らは多忙であるし、そのような作業には手間がかかるからだ。

よって、原文文字ベースの単価を採用しても、原文文字数の算出に必要な和文原稿を発注者側が作れない(作る暇がない)となると、翻訳者や翻訳会社からの請求書の妥当性を発注者側で確認することが難しくなる。

もちろん、翻訳が必要な文字数を自動で計算してくれるツールを特許事務所が使えるようになればこの問題は解消できる。

まとめ

訳文の質を重視する人が企業の知財部に増えれば原文文字ベースの単価が浸透していくのではないかと期待している。機械翻訳を推し進める巨大な流れの中で訳文の質を重視する人はむしろ減るかもしれないが、逆に訳文の質の重要性に気づく人も出てくるだろう。特許翻訳業界は今後どう変化していくのか。体力と気力が続く限り注目していきたい。

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